できないこと1:確実に儲けることはできない
当たり前のようだが、最も重要な事実がこれだ。株式投資に「確実」は存在しない。
SNSや投資系YouTuberが「この銘柄は絶対上がる」「この方法なら確実に利益が出る」と言っていても、それは嘘か、少なくとも誇張だ。プロの投資家でも、勝率は50〜60%程度と言われている。
株価は企業の業績だけでなく、為替、金利、政治情勢、自然災害、さらには投資家の心理まで、無数の要因で動く。これらすべてを正確に予測することは、人間にもAIにも不可能だ。
「確実に儲かる」が嘘である理由
- もし確実に儲かる方法があれば、全員がそれをやるため裁定が働いて利益は消える
- 過去のパターンが未来を保証するわけではない(過去の実績は将来の成果を保証しない)
- インサイダー情報による取引は犯罪(金融商品取引法違反)
- 「確実に儲かる」と謳う商材は、ほぼ100%詐欺
できないこと2:現物取引で投資額以上の損失を出すことはできない
これは逆に「知っておくと安心」な事実だ。現物取引(普通の株の売買)では、投資した金額以上の損失は発生しない。
例えば、10万円で買った株が暴落して価値がゼロになったとしても、失うのは最大で10万円だ。マイナスになること(借金を背負うこと)はない。
ただし、これは現物取引に限った話であることに注意。信用取引や先物取引では、投資額以上の損失が発生する可能性がある(後述)。
できないこと3:好きな時に好きな値段で売買することはできない
初心者がよく誤解するのが、「株は好きな時に好きな値段で売れる」という思い込みだ。実際にはいくつかの制約がある。
取引時間の制限
日本の株式市場(東京証券取引所)の取引時間は、平日の9:00〜15:30(11:30〜12:30は昼休み)だ。土日祝日は取引できない。年末年始もお休み。
「今すぐ売りたい!」と思っても、夜中や休日なら翌営業日まで待つしかない。その間に株価が大きく動くこともある。
値幅制限(ストップ高・ストップ安)
株価が1日に動ける幅には制限がある。これを値幅制限と言う。例えば、前日の終値が1,000円の株の場合、値幅制限は上下300円。つまり、700円〜1,300円の範囲でしか取引できない。
ストップ安に張り付いた場合、売りたくても買い手がいなくて売れないという状況が発生する。これが何日も続くこともあり、その間は塩漬け状態になる。
流動性の問題
取引量の少ない銘柄(小型株や新興市場の銘柄)では、売りたい数量を一度に売れないことがある。大量に売ろうとすると自分の売り注文で株価が下がってしまう。
できないこと4:空売りを気軽にやることはできない
空売り(ショートセリング)とは、株を持っていない状態で「売り」から入る取引だ。株価が下がると利益が出る。「株価が下がっても儲かる」と聞くと魅力的に感じるが、実は非常にリスクが高い。
空売りの最大の危険:損失が無限大になり得る
通常の買い(ロング)の場合、株価がゼロになっても損失は投資額まで。しかし空売りの場合、株価の上昇に上限がないため、理論上は損失が無限大になり得る。
例えば、1,000円で空売りした株が10,000円に上昇したら、1株あたり9,000円の損失だ。元の投資額の9倍の損失が発生する。これが空売りの恐ろしさだ。
空売り規制
日本では空売りに対していくつかの規制がある。
- 価格規制:株価が前日比で大幅に下落した場合、空売りが制限される
- 残高報告義務:一定以上の空売りポジションを持つ場合、報告が必要
- 貸株料:空売りには株を借りるコストがかかる。保有期間が長いほど負担が増える
- 逆日歩(ぎゃくひぶ):空売りが増えすぎて株が不足すると、追加コストが発生する
できないこと5:信用取引を誰でも自由にできるわけではない
信用取引とは、証券会社からお金や株を借りて取引する方法だ。自己資金の約3.3倍の取引ができるため、レバレッジ効果で大きな利益を狙える。しかし、誰でもすぐにできるわけではない。
信用取引の開設条件
- 投資経験:多くの証券会社で「株式投資の経験が1年以上」を求められる
- 資金力:最低保証金として30万円以上が必要
- 審査:証券会社による審査がある(収入、資産、投資経験などが考慮される)
- 知識の確認:信用取引のリスクを理解しているかの確認がある
信用取引の怖さ:追証(おいしょう)
信用取引で最も恐ろしいのが追証(追加保証金)だ。保有している株の評価額が下がり、保証金率が一定水準を下回ると、追加でお金を入金するよう求められる。
期限内に追証を入金できないと、証券会社が強制的にポジションを決済する。この時の損失は自己負担だ。最悪の場合、借金を背負うことになる。
信用取引で借金になるケース
- 信用買いした株が急落し、追証を払えない
- 空売りした株が急騰し、損失が保証金を超える
- ストップ安・ストップ高で決済できず、損失が拡大する
- 週末や祝日をまたいで大きなニュースが出て、翌営業日に大幅な損失が発生する
できないこと6:インサイダー情報で取引することはできない
企業の内部情報(未公表の決算情報、M&A情報など)を知った上で取引することは、金融商品取引法で厳しく禁止されている。
「友達が勤めている会社が合併するらしい」という情報で株を買ったら、それは犯罪だ。罰則は5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金、または併科。法人の場合は5億円以下の罰金だ。
SNSで「この株は近々上がる。内部情報がある」といった投稿を見かけたら、それに乗ることも違法になる可能性がある。十分に注意しよう。
できないこと7:損失を税金で全額取り戻すことはできない
株で損失が出た場合、損益通算や繰越控除で税金を軽減できるが、損失分の全額が戻ってくるわけではない。
- 損益通算:同じ年の株の利益と損失を相殺できる。利益100万円、損失80万円なら、20万円分にだけ課税される
- 繰越控除:その年に相殺しきれなかった損失は、翌年以降3年間繰り越せる
ただし、これらは確定申告が必要だ。特定口座(源泉徴収あり)の場合、放っておくと自動的に税金が引かれるだけで、損失の繰越はされない。
できないこと8:NISAで何でも買えるわけではない
NISA(少額投資非課税制度)は非常にお得な制度だが、すべての金融商品が対象というわけではない。
- つみたて投資枠:金融庁が認めた投資信託・ETFのみ。個別株は買えない
- 成長投資枠:個別株も買えるが、レバレッジ型や一部の投資信託は対象外
- 信用取引はNISA口座ではできない
- 海外株は証券会社によって取り扱いが異なる
また、NISA口座で発生した損失は、損益通算や繰越控除の対象外だ。つまり、NISA口座で損が出ても、他の口座の利益と相殺できない。この点はデメリットとして知っておくべきだ。
まとめ:「できないこと」を知ることが最大のリスク管理
株式投資で「できること」を学ぶのは大切だが、「できないこと」を知ることはもっと大切だ。
確実に儲かる方法はない。空売りは損失が無限大になり得る。信用取引は借金のリスクがある。インサイダー取引は犯罪。これらを知った上で投資を始めれば、大きな失敗を避けられる。
投資は「攻め」よりも「守り」が重要だ。まずは現物取引で、無くなっても困らない金額から始めること。それが投資で長生きする秘訣だ。